日本弁護士連合会「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律案」及び「刑法の一部を改定する法律案に対する意見書 1998年5月1日 (「児童ポルノについて」部分のみ抜粋)


a具体的な子どもが接写体とされる場合に限ること

本法により規制される児童ポルノは、被写体となった子どもの人権を救済し、保護するという目的に照らし、具体的な子ども(氏名住所が判明しなくともよい)が被写体となっている視覚的表現手段に限るものとされなけれぱならない。定義の中に、具体的な子どもが被写体となっている場合に限る旨を規定する必要がある。

b「絵」
本法案では、表現手段として、「写真、絵、ビデオテープその他の物」としているが、aの基準によれば、表現手段は写真、ビデ オテープ等の映像に限定すべきであり、「絵」を除くべきである。
「絵」には、モデルのある絵画もあるだろうが、それが披写体個人を特定させることは少ない。それにもかかわらず、児童ポルノに「絵」を列挙することは、コンピュータ・グラフィック等を用いたポルノや、ポルノコミックを規制対象とする余地を残すことになる。
c「性的好奇心をそそるもの」

児童ポルノについての定義の第2号は、児童の全部または一部の裸体の視覚的描写を限定する要件として、「性的好奇心を そそるもの」という限定を付しているが、限定があいまいなので、第2号全体を削除すべきである。

日本国内に流布されている児童ポルノには、子どもの裸体が写っているだけで、一般的には性的表現とみないものでも、子どもの性に対する嗜好を持つ者にとっては、このような写真が性的好奇心の対象として用いられるものも数多く存在しているという 現象がある。本文言はそうした現象に対応するために設けられ、裸の子どもを写した家族写真や報道写真のようなものにまで処罰の筒囲が広がることを懸念して、限定を付したものと解される。

しかし、描写された子どもの裸体が性的好奇心をそそるものであるかどうかの客観的判断はむずかしい。現在の日本の社会においては、そもそも何がポルノであるかの議論が深まっているとはいえず、市民の中でポルノか否かの線引きを明確にできるだけの合意は確立されていない。児童ポルノについての現状認識も薄い。したがって、現時点では、性的好奇心をそそるか否かの判断が、もっぱら捜査機関に任されてしまう危険が大きい。そのような曖昧な構成要件は限定を付したことにならない。



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